① 導入・全体課題
新卒採用におけるWeb広告とは、単に企業認知を高めるためだけの施策ではありません。大学生が就職活動を始めるタイミングや行動に合わせて広告を配信し、自社の採用ページやインターン情報へ直接誘導することで、学生のエントリーを獲得することもできる手段です。
今回ご紹介するのは、そうした新卒採用向けWeb広告を活用し、27卒サマーインターンのエントリー数を前年比約160%まで伸ばした事例です。特別な追加オプションや予算増額を行ったわけではなく、前年と同等の条件・予算のまま、広告配信の設計と運用の考え方を見直すことで成果につながりました。
本事例の企業は、関西拠点の大手化学メーカーです。以前から新卒採用にWeb広告を取り入れており、学生募集そのものに広告を使うこと自体は、すでに一般的な取り組みとなっていました。しかし、採用全体では一定の応募数を確保できていたものの、営業職を中心とした文系学生の母集団形成には大きな課題が残っていました。
技術職向けの訴求は学生に届いている一方で、営業職については「そもそも学生の目に触れているのか」「どの接点が応募につながっているのか」が把握できていない状態だったのです。その背景にあったのが、Web広告の運用構造そのものでした。
当時は、どの媒体に、どのような意図で配信するかといった整理が十分に行われておらず、明確な根拠を持たないまま複数の広告媒体へ配信していました。成果として計測していた指標も、クリック数やナビサイトへの遷移数が中心で、実際のエントリーや採用成果との関係を十分に捉えられていませんでした。
その結果、配信自体は広く行われているものの、媒体ごとの役割や成果の違いが見えにくく、どの施策が営業職の応募につながっているのかを判断できない状態に陥っていました。数字自体は確認できているにもかかわらず、次に何を改善すべきかが分からず、運用を続けても手応えを得られない状況が続いていたのです。
社内に対しても、「なぜこの施策を行っているのか」「どこが成果につながっているのか」を論理的に説明できず、再現性のある採用施策として整理できていなかった点が、大きなボトルネックとなっていました。
このような課題は、企業の新卒採用において決して珍しいものではありません。Web広告の配信量やクリック数といった指標は確認できていても、それらが実際のエントリーや採用成果にどう結びついているのかが分からないまま、運用が続いてしまうケースも見られます。本事例も、そうした状況の中で、配信設計そのものを見直す必要性が浮き彫りになっていました。
② アサーティブが取った配信方針
こうした課題に対し、私たちはまず営業職の文系学生が集まらない理由について整理しました。
検討の中で立てた仮説は、「化学メーカー」という業種イメージそのものが、文系・営業志望の学生にとって心理的なハードルになっており、営業職を検討する学生の選択肢にそもそも入っていない可能性があるという点です。
そこで、「検討してもらうための接点づくり」と「就職活動を行っている学生に正確に届けること」の2点を重視し、配信媒体としてGoogleリスティング広告とMeta広告を選定しました。
リスティング広告については、学生が情報収集を行う初期段階で企業との接点をつくることを目的としています。業種名や企業名ではなく、「営業職」「新卒」「インターン」といった職種軸で情報を探している学生が検索した際に、候補の一つとして認識してもらうことを狙いました。業種イメージによる先入観が固まる前のタイミングで検討対象に入ってもらうため、検索行動に対する接点としてリスティング広告を活用しています。
一方、Meta広告は、就職活動を行う学生に対して直接情報を届ける手段として活用しました。学生や若年層にリーチしやすく、年齢を1歳単位で指定できるため、就職活動を本格的に意識し始める大学生層に対して配信対象を細かく設定することができます。
こうした特性を踏まえ、新しい配信設計のもと、前年と同等規模の予算で運用をスタートしました。
運用にあたっては、従来計測していた広告クリック数やナビサイトへの遷移数に加え、採用ページ内での行動も評価対象として計測しました。具体的には、採用ページをどこまで閲覧したか、どの程度の時間滞在したかといった行動を、応募に至る手前の指標として計測しています。
こうした行動をマイクロコンバージョンとして設定することで、単に流入量を見るのではなく、どの広告が学生の関心を高めているのかを判断できる状態をつくりました。取得したデータは、広告媒体の配信最適化やクリエイティブ改善にも活用しています。
リスティング広告では、検索キーワードの精査や広告文の変更を行い、学生の検索意図とのズレを調整しました。Meta広告では、バナーのABテストや差し替えを繰り返し、反応の良い訴求を見極めています。
特にMeta広告では、「化学メーカー」という業種特性を前面に出すのではなく、営業職としての活躍イメージや、文系出身でもチャレンジできる点を伝える訴求が効果的でした。
こうした改善を重ねる中で、Meta広告において効率よく獲得できる配信パターンが見えるようになってきました。そこで、効率的に獲得ができているMeta広告へ、徐々に予算配分を寄せていきました。一方で、リスティング広告については、学生の検索行動に対する接点としての役割を残しつつ、獲得効率の高いMeta広告を中心に据える形で、全体の予算配分を調整しています。
このように、仮説に基づいた媒体選定から、計測設計、分析、改善、予算配分までを一連の流れとして運用を行いました。
③ 結果
こうした配信設計と運用の見直しを行った結果、27卒サマーインターンでは、エントリー数を前年比約160%まで伸ばすことができました。
本施策では、特別な追加施策や予算増額は行っていません。前年と同等の募集条件・同規模の予算のまま、配信設計と改善の積み重ねによって成果を伸ばした点が、本事例の大きな特徴です。
※なお、本施策においてナビサイトの追加オプションは実施していないことも、事前に確認しています。
また、単純なエントリー数の増加だけでなく、母集団の質と量の両面で改善が見られた点も重要な成果です。営業職を志望する文系学生からの反応が安定して増加し、これまで課題となっていた職種においても、十分な応募数を確保できるようになりました。
さらに、マイクロコンバージョンの結果や配信データを通じて「どの媒体がどの段階で学生と接点を持っているのか」「どの訴求が関心喚起や行動につながっているのか」が整理されたことも、大きな変化の一つです。
このように、同じ予算・同じ条件であっても、配信設計と改善の考え方を整理することで、新卒採用の成果は大きく変えられることを示した事例です。
④ まとめ
本事例が示しているのは、媒体を増やすことや予算を積み増すことが、必ずしも新卒採用の成果向上につながるわけではないという点です。
重要なのは、「誰に」「どの媒体で」「どのように」情報を届けるかを整理し、配信結果をもとに改善を重ねていくことにあります。
今回の取り組みでは、前年と同等の募集条件・同規模の予算という制約の中で、配信設計と運用の考え方を見直しました。その結果、27卒サマーインターンではエントリー数を前年比約160%まで伸ばし、営業職を中心とした文系学生の母集団形成にも改善が見られています。
新卒採用におけるWeb広告は、配信そのものが目的ではありません。設計と改善を積み重ねることで初めて、採用成果と結びつく施策になります。同じ条件であっても、配信設計と改善の考え方を整理することで、新卒採用の成果は変えられます。